No.009

2度目も君。



 たくさん書き連ねてある黒板の文字に眠くなる教師の言葉。なんでお昼の前の授業ってこんなに眠くなってしまうのだろう、中学の頃からの謎だ。
 ふと窓の外を見るとどこかのクラスの男子が体育でサッカーをしているのが見えた。ぼーっと見ていると去年まで同じクラスだった岩泉が目に入る。岩泉がいるってことは隣のクラスかな。
 岩泉はバレー部のエースなだけあって運動能力が高い。及川の陰に隠れてしまっているがやはり女子から人気があるのだ。そして私も岩泉を好きな女子の内1人だ。


 私が岩泉を好きになったのは高1の頃だったと思う。
 同じクラスだった岩泉の机の中に携帯が入っているのを見つけてしまった。流石に携帯がないのは困るだろうと彼の所属する男子バレー部が活動する第3体育館へ持って行くことにしたのだった。
 私は運動なんて全然出来なくて、バレーなんて体育くらいでしかしたことがなかったから男子の本気のバレーがどんなものかなんて知らなかった。いや、今でもあまり分からないけど。
 体育館の重たい鉄扉を開けて一歩踏み出そうとすると迫り来る速いなにか。反射的に目を瞑って身を硬くすると「あぶねぇ!」と聞いたことのある声がした。

「大丈夫か?」
「岩泉、くん・・・ありがとう」
「おう。んでどうしたよ」

 本来の目的をすっかり忘れていて、言われて慌てて携帯を取り出した。

「岩泉くん、携帯忘れてたよ」
「あっ、忘れてたわ。ありがとうな!」

 その時きらきらとした明るい表情で笑った彼を見た瞬間私は岩泉を好きになってしまったのだ。ちなみにいつの間にか私は岩泉のことを岩泉くんと呼ばなくなっていた。


 岩泉を見るだけで終わった授業の後。今日の昼ご飯を買うため購買に向かう。廊下には私と同じようにお昼ご飯を買いに行く人や友達と喋っている人たちで溢れている。
 人の波を掻き分けながら階段まで進んでいると誰かの声が聞こえた。「危ない!」何のことだろう、と思っていると斜めになる視界。私は階段から落ちたのだと理解するのには時間がかかった。足首捻挫ですむかなあ、なんて見当違いなことを考えて迫り来る痛みに備えて目を瞑る。
 それは5秒だったかもしれないし30秒かもしれない、或いはもっと長かったかもしれない。迫り来るはずの痛みが全く来ず、恐る恐る目を開けると目の前には岩泉の顔。

「い、わいずみ・・・?」
「おう・・・大丈夫かお前」

 岩泉が落ちてきた私をキャッチして助けてくれたらしい。だから痛みがなかったのか、と岩泉の隣にいる及川の焦ったようなニヤケを噛み殺したような顔を見て気づいた。なんだか若干デジャヴを感じる。
 改めて見た岩泉は助けてくれたという状況からかもしれないが一言で言うとお前こんなにかっこよかったっけって感じだ。つり橋効果ってこんなことを言うんだっけ?ちょっと違う気もする。元から好きだったのに更に好きにさせてどうするんだお前。

「岩泉ありがとう・・・あの、そろそろ降ろしていただけると・・・」
「あ、わりぃ」
「ごめん、ありがとね」

 流石に恥ずかしくなってきたので降ろしてもらう。好きな人の顔がすぐ目の前にあって尚且つ抱えられているのは本当に心臓に悪い。
 「岩ちゃんヒーローみたいだね」という及川の声がやけに頭に響いた。


inserted by FC2 system