No.005

昔から君は



私の幼馴染の西谷夕くんは、昔からずっと
私のヒーローだ。私がいじめられてると
すぐに駆けつけてくれて、私が
困ってるといつも助け舟を出してくれる。
朝、彼を起こすのが私の日課。
「夕くん起きて!朝だよ!」
窓を開けると、すぐ隣には彼の部屋
「んー...なんだよ。もう朝かよぉ...」
眠たそうな声をあげて、目を擦りながら
カーテンを開けて、窓を開く彼
「おはよう、夕くん」
そんな彼につい笑ってしまいながら朝の
挨拶をする。
「んー、おはよう...」
眠そうだけど、挨拶してくれる夕くん。
「二度寝しちゃダメだからね!」
「おー、わかってるー」
彼は眠たげに窓を閉めてからカーテンも
閉めた。
私も同じように窓を閉め、カーテンを閉める
そして着替えて、リビングに行き、
母親の用意してくれた朝食を食べる。
食べ終わると鞄を持って、家を出る。
家を出て、彼の家の前で、彼が出てくるのを
ただ待つ。これが私の日課だ。
しばらくすると彼が慌てて出てくる
「待たせてごめんな!」
彼は手を合わせて私に謝る。
「いいよ、いつものことなんだし、
それより学校早くいこ!」
私は笑って彼を許して、こう言う。
同じ日常があることがとても幸せ。
「おう!」
彼も笑顔で応えて、一緒に歩いていく。
「もうすぐテストだね」
私がそう言うと彼は嫌そうな顔をする
「テストかよ...嫌だなぁ...、部活も
できねぇし...」
ショボンと落ちこむ彼
「仕方がないよ。学生の本分は勉強
なんだから」
私は励ましながら笑う
「そういえば、2丁目の方で新しく
スポーツ用品が売ってるお店がオープン
するみたいだよ」
「ほんとか!? 新しいサポーター
欲しかったんだよ!もうだいぶボロボロ
だからさ!よっしゃあ!」
彼はバレーボールのことを考える時が
一番楽しそうで、私もそんな彼を
見るのが好きだ。
「良かったね、夕くん」
私がそう言うと
「あぁ!教えてくれてありがとな!」
と無邪気な笑顔を返してくれる。
「うん、どういたしまして」
彼の豊かな表情が好きで、だから少しだけ
意地悪したくなる。
「でも、テストのこと忘れちゃダメだよ」
そう言うと思い出したように
またショボンとする。
コロコロ変わる彼の表情は見てて
飽きることは全くない。
「春の大会だよね?頑張ってね」
夏の大会で、烏野高校のバレーボール部は
青葉城西高校に負けてしまった。
でも、凄くいい試合で、夕くんも
他のバレーボールのみんなも一生懸命で
凄く目を惹かれた。リベロとして
ボールを繋ぎ続けた夕くんは...ううん
夕くんだけじゃない、最後まで戦い
続けた烏野高校バレーボール部は
凄くかっこいい。
春の大会で、三年生の先輩達は本格的な
引退で、春の大会が唯一、先輩達と
一緒にバレーボールができる最後の機会。
夕くんはきっと春の大会のために
ずっと練習していたいと思う。
だからこそ応援したい。傍で見ていたい。
烏野の守護神を、私のヒーローが
ボールを繋いでいく姿を。
「...あぁ、次は絶対勝ち進んで、
全国に行くぜ!だからお前も試合
見に来てくれよな!」
真剣な面持ちで頷いてから
彼はしっかりと強い想いを抱いた瞳で
私を捉えて言った。
「うん、ずっと見に行くよ。」
だって見てたいんだもの。夕くんを
「おっ!スガさんだ!おはよう
ございまーす!」
彼は部活の先輩を見かけると、
目もくれずに飛び出して行った。
もう学校に着いてたらしく、
夕くんと話してるといつも私は
楽しくて、学校までの距離を忘れてしまう。
彼が笑顔なのを見れるのは嬉しい、
でも、少しだけ寂しく感じることがある。
私もバレーボールをやってれば良かったと
時々、思う程に。
「じゃあ、また帰りなー!」
夕くんは少し遠くにいる私に向かって
手を振って、先輩と一緒にどこか
行ってしまった。
彼とはクラスが別々だけど、時間が合う日は
一緒に帰ってる。部活がある日は
私は図書室で勉強して、時間を潰してから
一緒に帰ってた。
それが私の毎日で日常。そんなことを
考えながら教室に着くと、友達に挨拶をして
授業の準備を始めた。


授業が終わり、帰りの支度をしていると、
携帯にメッセージが届く。
夕くんからで『すまねぇ!用事ができたから
先に帰っててくれ!ほんと申し訳ねぇ!』
と送られてきた。私は
『気にしないでいいよ、じゃあ先に
帰るね』って返事をして、帰りの支度を
終えると、友達にまた明日と手を振ってから
教室を出て、学校を出た。
いつもは誰かしら一緒にいるので
とても静かで少し違和感。
学校から家までの距離は凄く近い。
坂道を降れってずっとまっすぐ行くだけ。
その内見えてくる住宅街に入れば
夕くんの家が見えて、その奥の隣にある
家が私の家。
遠くないはずなのにとても遠くに感じる。
いつも夕くんと話しながら帰ってたから
かな。
そう思いながら足を進めていくと、
後ろから誰かが付けてるような感覚が
ふと感じた。
気のせいだろうと思いながらも、少し
早歩きになると、後ろから追いかけるように
足跡が聞こえてきた。
影に映るのは私と後ろにいる誰かで、
少し怖くなって遠回りして公園の方に
逃げ込むように歩く。
でも夕方だからか、誰もいない。
曲がり角を上手く使えば、
学校まで戻れる...そう思いながら
足はどんどん早歩きになってく、
誰か、助けて。
そう叫びたいのに上手く声が出ない。
涙を堪えながら、学校に近づいていくと
後ろにいる人が急に駆け出して、私の
腕を掴んだ。
「はっ...離して!」
「おいおい、お嬢さん。それはないだろ?
さっき見かけて、連れて込もうと思ったのに
逃げるだなんて、これ以上
焦らすんじゃねぇよ」
30代後半と言うところか、中肉中背。
ひげの生えた男。
「だっ誰か助けて!」
「おい!余計な真似してんじゃねぇよ!」
私の掴んだ腕を思いっきり握られる。
凄く、痛い。
「助けて...夕くん!!!」
声をあげて、夕くんが来るとは
限らないのに、彼の名前を呼んでしまった。
「おい!おっさん、何してんだよ!!!」
すると聞き覚えのある、安心感のある声が
私の耳に届いた。
「夕くん...!」
「チッ!人が来やがった!!!」
夕くんを見ると男は私を突き飛ばすように
腕を離して逃げた。
「おい待てよ!!!」
夕くんは追いかけようとしたけど、
私は夕くんの学ランの裾を掴んでしまった
「夕くん...」
私は安心したのか、涙がポロポロと
零れてきた。
「おっおい!?大丈夫か!?怪我は...って
あいつが握ってたとこが痣に...」
「夕くん...来てくれてありがとう...」
涙のせいで上手く言えなかったけど
それでも伝えたかった。
来てくれて嬉しかった。
「...とりあえず警察行こう、な!」
私の頭をくしゃくしゃと撫でてから
私に手を差し出してくれた。
私はその手を取って、夕くんと一緒に
近くの交番まで歩いていった。

交番で人相などや特徴を警察官の人に
話す間、夕くんはずっと私の傍に
いてくれた。
「ほんとわりぃ...俺が一緒に帰れなくなった
せいで...」
「夕くんは悪くないよ...私も注意が
足りなかったから...」
「今度から何があっても一緒に帰るからな!
絶対、今度は俺がお前を守るから!
絶対...怪我とかさせないから」
私の手首についた痣を見ながら言う。
「うん...ありがとう...本当にありがとう...」
私は嬉しくて夕くんにありがとうと告げると
「お礼なんて言われる筋合いねぇよ...」
と、まだ自分を責めているみたい...
「夕くんは昔から、なんだか
ヒーローみたい」
思わず、私は言ってしまった
「ヒーロー...?俺が?」
きょとんとした顔で私を見つめる夕くん
「うん!、昔から私がピンチだと
助けに来てくれるから...」
そう言うと夕くんはいつもより小さい声で
「それはお前のことが...」
っとぼそぼそと言った後に咳払いして、
「とにかく、お前のことは
絶対守るからな!」
と、いつもの子どものような笑みで
笑ってくれる夕くん。
私は夕くんの笑顔のおかげで
安心できていた。
「さて、おばさんも心配してるだろうし、
帰るか」
そう言うとそっと手を差し出した夕くん
「えっ?」
「この方が、より近くにいれるし、
お前を守れるだろ?」
少し照れながら言う、夕くん。
昔と変わってない...、昔もこうやって
手を差し出してくれた。
「うん...」
そして手を繋いで帰る。
夕くんの手はやっぱり男の子の手で、
バレーボールの練習をしてるからなのか
凄くゴツゴツとしてる。
でもこの手のおかげで凄く安心できてる。
きっと取り乱さずに済んだのも夕くんの
おかげだ...。
これからも...このままずっと
繋いでいたいな...
なんて思いながら私達は一緒に
歩いていった。



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